2008-09

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アイドルの楽しみ 3

それからしばらく私が楽しいと思える仕事である濡れる仕事―――勿論写真集とか、私の下手な歌とか(ほとんど売れなかった。というかほとんど数を作らなかった)、それなりに楽しい仕事はあったけど、私が本気で楽しい仕事は濡れる仕事だから―――はなくて、水死体役から4ヶ月ほどたった日、若手人気バンドのPVで雨に打たれるシーンをやることになった。大好きなバンドだったから、二重に嬉しかった。

「陽菜君、よろしく」
ギター兼ボーカルのDAIYAさんが握手をしてくれた。なんか、芸能界入って初めて濡れる以外で本気で笑顔になった。
「陽菜ちゃん、濡れるシーン大変だけど頑張れる?」
ベースのRIKI君が心配してくれたけど、平気だと答えたら、マジ!?すごいね!と驚いてた。後で聞いた話だとこのRIKI君が私のことをなぜか気に入ってくれていて、それで今回のPVに出してくれたらしい。後からこのPVはこれからの仕事を大きく動かすとは思ってもいなかったが・・・・

汗ばむほど暑いスタジオでまず私から撮影。何百リットルか忘れたけど、冬のセーラー服のまま冷たいシャワーを浴びせられた。時々、「はい、回って」と言われ、ターンをしたり、ジャンプをしたりする。そのたびに飛沫が撒き散る。10分程度撮影された後休憩。タオルをDAIYAさんから渡してもらい、ちょっとドキドキしてしまった。隣でRIKI君がニヤニヤしながらこっちを見てたので、笑いかけてみた。RIKI君は「うっわー、ちょ、マジかわいー」と大興奮。そこでドラムのCENさんに思いっきりスティックで突っ込まれ、笑ってしまった。

撮影はその後20分やって、私の部分は終了した。その後仕事もなかったので、せっかくだから見学することにした。濡れた服のままの方が涼しいから、とタオルにくるまって眺めていた。眠そうなギターとコーラスのREIさんが現れ、撮影が始まった。表情にはあんまり出さなかったが、大興奮だったのは言うまでもない。
そこへ撮影監督がやってきた。
「せっかくだから、ちょっと別のシーンも撮りたいんだけど、いい?」
こういうのは有無をいわさずマネージャーがGOサインを出すのが普通だと思う・・・まぁ、乗りかかった船。ぜひ、と言ってシャワーの中に入った。
バンドの4人はずぶ濡れだったけど、そのずぶ濡れ姿もカッコよかった。なにやらDAIYAさんは打ち合わせをして、曲の最後のフレーズから再開。私は監督の指示で中心まで歩き、な、なんと、DAIYAさんに抱きしめられた。顔が熱くなっていくのが分かった。後奏24秒間抱きしめられ続け、OKがでたあともシャワーを浴びながら放心状態だった。

マネージャーに服を着替えるように言われたが、DAIYAさんのあの感覚が忘れられず、衣装だと言うことも忘れてずぶ濡れのまま歩いて帰った。

結局その「抱きしめ」シーンは使われなかったけど、あの感覚は忘れられない。

アイドルの楽しみ 2

次の仕事は死体役だった。水死体。制服のまま藻の生えた汚い緑色の池に石をくくりつけられて沈むというもの。濡れるだけじゃなくよごれることもできる。最高の舞台だ。
まず、犯人役にハンカチで布を当てられるシーン。睡眠系の薬物(探偵モノのアニメで「くろろほるむ」とか言ってるやつみたいなのだとか)を嗅がされているという設定らしい。ふっと目を閉じて犯人役に寄りかかる。
次のシーンでボートに乗り、足に石を縛られ、いよいよ池に落とされる。一発勝負だ。といっても私は何にもせずにただ落とされるのを待つだけだった。石をすねにのせられ、ポイッと水に放り込まれる。めちゃくちゃ冷たい上に、ぬるぬるっとした苔が滑る。あとはただ浮いてるだけ。水中カメラもあるらしい。空気をはききり、そのまましばらく撮影。そのまま発見されるシーンもやったらしい。目を閉じていたため分からない。ずいぶん長い間息を止めていた。しばらくするとそれも終わり、髪を引っ張られて終了の合図が出され、私は自分でロープをはずして浮上する。ゆっくり泳ぎ、池からあがる。寒い。震えたくもないのに体が自然にブルブルする。全身ビチョ濡れ。しかも臭い。でも、これだけひどい格好なのに私はドキドキと興奮していた。引き上げられたシーンも撮るため岩場に寝そべる。ブルーシートで覆われているとはいえ岩がすごく痛い。でも表情は出さない。自然に蒼い顔にするため、池の水に氷を入れた冷たい水を浴びせられる。ここは監督のこだわりらしい。震えたら撮り直しに加えてまた氷水を浴びることになる。でも力んだら蒼い顔にならない。何十杯も氷水を浴びせられ、撮影終了。新人だから誰も見向きしない。『お疲れさま』なんて言われるのは私を持ち上げて落としたそこそこ有名なはずの俳優さん(私は知らない)。新人なんて掃いて捨てるほどいるんだから、死なない程度で何でもする。それが当時の常識だった。
マネージャーは申し訳なさそうに私を励ましていたが、私の方があっけらかんとしていた。濡れた服を着替える場所?勿論、ない。その場で脱いで体を拭いてその場で着替えて帰るか、ずぶぬれのまま歩いてどこか着替える場所を探すかしないといけない。私は勿論後者を選び、本当は着替えたくなかったけど、トイレの水道で体を水で洗って着替えた。

アイドルの楽しみ 1

スカウトを受けて2ヶ月後、最初の仕事が決まった。アイドルだらけの水泳大会。まさに醜い争いの起きそうなステージだ。
私の芸名は「水沢陽菜」に決まったことが会場に行く前に伝えられた。「水」の字が入っていることが少し嬉しかった。
私は勿論勝つ気も笑いに貪欲になる気もなかったが、まぁ流されるまま進行に身を任せていた。
ここで私は不思議な女と出会った。彼女の芸名は真奈美(本名は未だに知らない)。真奈美は私の態度をすぐに見抜いた。勿論私は真剣にリアクションをとっていたし、勝ったら本気で喜んでいるという演技も、主催者側が喜ぶ感じでしていた。ところが、
「あたしと同じだね。そういう斜に構えた演技」
まるっきり見透かされた。これは面白い。『あたしと同じ』。まさか同類がいるとは思わなかった。似たもの同士、真奈美はこの世界の唯一の友達になった。真奈美は将来AV女優になりたいと言っていた。というか、AV女優は真奈美にとって『運命づけられた職業』だといっていた。
いよいよ私が一番やりたかった競技がきた。水中早着替え。服のままプールに飛び込んで、別の服でプールから上がる至福の競技だ。
セーラー服でプールに飛び込む。ふわふわっと優しく肌をなでる布が心地よい。
真奈美も同じだった。ふと見ると先ほどとは違う満面の笑みを浮かべていた。ずぶぬれでプールから上がる。結果?さぁ、競技に興味なかったから覚えてないや。

「私はこれ以外にはメディアには出ないから。」
真奈美はそういった。
なぜか聞くと、「ほら、元アイドル、AVデビューって箔がついて、『当時のお宝映像』みたいなのが出て注目されるじゃん。」
なるほど。真奈美らしい戦略的な考えだった。

「それじゃ。またいつか。」私がそういうと連絡先を交換し、別れた。

アイドルの楽しみ(仮題)-episode 0-

表参道の下り坂をショップ見ながら歩いていると、アロハシャツに短パンというチャラけた男が声をかけてきた。
「キミ、芸能界に興味ある?」
芸能界。当時中学生の私にもわかった。カメラを向けられて華々しく世間を飾る明るい世界とは裏腹の、新人同士がつぶし合い、先輩が後輩をつぶし、スターになった瞬間、僅かなうちに捨てられる芸能界。楽しい世界だとは微塵も思わなかった。しかし、興味はあった。馬鹿馬鹿しい平凡な日常より、少しは大人の汚い社会を嘲笑する楽しみができる。そんな考えで私はこの世界に身を置いた。
私はどんな仕事もこなした。曲がりなりにも演技関係はまじめに取り組んだし、先輩関係にも気を配った。元々もっている(と、年輩の大先輩からは言われていた)人付き合いの良さで、かなり評判がよかった。脇役ながらそこそこいい役ももらえた。しかし、どんな仕事も少しも楽しくはなかった。しかも、私からしたら馬鹿馬鹿しくて吹き出してしまいそうな話だが、この芸能界に憧れてたかる阿呆な虫けら女子どもがいる。この世界に夢も希望も未練もない邪魔ものは早めに消えるべきだから、20歳になったとき、『学業に専念する』といって引退した。
唯一私が芸能界で楽しめた仕事は、濡れる仕事だった。ベッドシーンではない。というか、ベッドシーンはしなかった。しけた世界に裸まで売る価値はない。私が楽しかったのは、本当に濡れる仕事。ずぶ濡れになることだった。

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