小説置き場

運命の出会いなんて信じないと思っていた最近の私だけど、博史さんは最初にお会いしたときからもうなにかしら惹かれるものがあった。泥まみれで目があった瞬間、ズキンと胸が苦しくなった。やっぱり私は博史さんのことが好きだ。逆に好きな人にこそ、みすぼらしい姿を見せたいと思ってしまうのは、やっぱり私はＭなんだろう。

撮影準備中にひなちゃんと話ができたので、ちょっとそういった姿を旦那さんに見せることに悦びを感じるか聞いてみた。
「見せる悦びねえ・・・うちは元々見せる立場・・・つまり、アイドルやったから見せることに抵抗はないんやけど、旦那がＷＡＭを見るのが好きでしょ？うちはやるのが好き。利害が一致してるから、見せてるって感覚やなくて、うちがやってるのを旦那が見てるだけの感覚かな。旦那にだけは」
「旦那さんにだけ？どういうこと？」
「うちが動画に出るんは、旦那っていうバックアップがあってこそでな？金銭的な面から言うたらうち絶対モデルなんかやらへんよ」
どういうことだろう。いただいているのは結構な額だ。それでも足りないというのか。
「ひなちゃん、見せたいんじゃないの？」
「少し見せたいっていうのも、ま、あるかもしれんけど、ほかの撮影者やったら絶対出ぇへんわ。ＷＡＭモデルなんて需要少ないから、食うていけへんし、かと言うてＡＶに出たくはない。うちの旦那みたいにギャラ高いとこばっかりやないし、裸やヤッてるとこ見せたないしな。せやから、旦那の収入あってこそ自由にこういう撮影とか参加できるんよ」
知らなかった。よく考えもせず飛び込んだこの世界。でも、考えてみたら、行為はないけどアダルトビデオよね・・・行為のないアダルトビデオなんて、そうあるわけではないよね・・・これは博史さんとかの話ではなくなってきた。

「ひなちゃん、ちょっと監督さんと相談したいことがあるんだけど」
ひなちゃんは、いーよ、とだけ言って、監督を応接間に連れてきてくれた。
「どうしました？彩夏さん」
こうして面と向かわれると、気持ちが揺らぐ。発売禁止、とまでは行かないまでも、どうしたらよいか相談するつもりだった。ギャランティもいただいてるし、今回いただいているギャランティもちょっとした額だ。素材とかの費用も掛かってるはず。と考えてると、監督の方が先に口を開いた。
「ちょうどいい機会なので話しますね。彩夏さん、今回の作品、販売'は'無しにしませんか？」
えっ、と驚いた。私が今言わんとしていたことだ。
「まぁ、私の撮影してるこの作品、カテゴライズするとアダルト作品にあたります。アダルトビデオっていうのは、一度出演するとなかなか足を洗えない世界なんです。これから先彩夏さんは再就職なさるか、あるいは男性とお付き合いなどなさる事と思います。その際、こういった映像にたった一回出演するだけで、人生が狂ってしまうことがあるんです。だいたいわかりますよね？」
監督は丁寧に話してくれた。私は頷くだけしかできない。
「彩夏さんは少なくともアダルトビデオ向きじゃないです。もっと仕事ができる人だ。博史がそう言ってますし、私もそう思います。だから、今回の映像、販売などの公開は無しにして、僕と博史とＤだけの範囲でとどめさせていただく、ということにしませんか？勿論出演料、衣装代などの諸経費はお支払いしますから」
「あ、でも・・・でも、せっかくの作品にいきなり発禁は・・・それにこんなにお給料もいただいてますし、それに・・・」
「ああ、それは大丈夫です。気にしないで。僕、結構趣味にお金掛けるのが好きなんで、この撮影もあくまで趣味なんですよ。協力してくださる方には最大限お礼をしたいだけなんです。販売についてはまぁ、おまけみたいなもんですから、売らなくても売れなくても全然構わないんです。」
私がきょとんとしてると、監督は
「こちらがわの得、というのは変かもしれませんが、一番喜んでるのはひなです。新しいＷＡＭ仲間が出来たって・・・ああ、そういったことでよろしいですか？」
と訊いてきた。私はあわてて、
「あ、はい、よろしくお願いします」
と、答えてしまった。
「で、彩夏さんの話というのは？」
「あ、ああ・・・いや、大丈夫です」
「あ、そうですか。なら僕は撮影準備に戻ります。今日は・・・まぁ、期待しててください」
監督さんはニヤッと笑い、部屋を出た。

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とりあえず完成しているところまで置いておくことにしました。