2024-05

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アイドルの楽しみ(仮題)-episode 0-

表参道の下り坂をショップ見ながら歩いていると、アロハシャツに短パンというチャラけた男が声をかけてきた。
「キミ、芸能界に興味ある?」
芸能界。当時中学生の私にもわかった。カメラを向けられて華々しく世間を飾る明るい世界とは裏腹の、新人同士がつぶし合い、先輩が後輩をつぶし、スターになった瞬間、僅かなうちに捨てられる芸能界。楽しい世界だとは微塵も思わなかった。しかし、興味はあった。馬鹿馬鹿しい平凡な日常より、少しは大人の汚い社会を嘲笑する楽しみができる。そんな考えで私はこの世界に身を置いた。
私はどんな仕事もこなした。曲がりなりにも演技関係はまじめに取り組んだし、先輩関係にも気を配った。元々もっている(と、年輩の大先輩からは言われていた)人付き合いの良さで、かなり評判がよかった。脇役ながらそこそこいい役ももらえた。しかし、どんな仕事も少しも楽しくはなかった。しかも、私からしたら馬鹿馬鹿しくて吹き出してしまいそうな話だが、この芸能界に憧れてたかる阿呆な虫けら女子どもがいる。この世界に夢も希望も未練もない邪魔ものは早めに消えるべきだから、20歳になったとき、『学業に専念する』といって引退した。
唯一私が芸能界で楽しめた仕事は、濡れる仕事だった。ベッドシーンではない。というか、ベッドシーンはしなかった。しけた世界に裸まで売る価値はない。私が楽しかったのは、本当に濡れる仕事。ずぶ濡れになることだった。

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